ここだ!
母の生家のある路地に入ると女性に案内される前にすぐにわかった。
家は確かに変わってしまっていたが、道の突き当りにあるのだ。
そして、左右の風景があのときを思い出させた。
あのときのままだ。懐かしい想いが胸にこみ上げる。
母は喜んでくれているだろうか。
思えば、旅の初めから不思議な導きがあった気がしてならない。
港を勘違いしていなければスムーズに自転車が借りられて、先生に町の案内をしてもらうこともなかったはずだ。その先生が教えてくれなければあそこに店があることも気づかなかったろうし、一見開いてるようには見えない店なので、明かりが付くことが開店の合図ということを聞かなければ、あの扉に手をかけなかったろう。そうしたら驚いて大声を出すこともなく店主の女性に気づかれることもなかったはずだ。そもそもとても天気が良く暑い日だったことも関係していたと思う。暑い中、町案内で長時間歩かなければ、喫茶店で休もうということにならなかったからだ。
母はきっと喜んでいる。だからこそ、ここに辿り着いたのだと思った。
達成感なのか、その日の真っ青な海を照らすまぶしい空と同じくらいの光のようなものが心の底から沸き上がった。
しばらく生家周りの散策に付き合ってもらったあと女性に別れを告げると、その店のすぐ並びで民宿も始めたから、今度は泊りで遊びにきてと言われた。
店主も先生も虜にするような島だ。もちろん私もまた来たいと思った。きっと母がまた連れてきてくれる。そう思って再び自転車を漕ぎ始めた。
おわり
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