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シェムリアップのこと④

夜のシェムリアップを歩いた。

宿から徒歩15分くらいのところにナイトマーケットがあり、夕方ころからにぎわい始める。

バーや土産物屋、洋服屋にマッサージ店などなんでもある。

この付近は欧米人が多く、中華料理からイタリアンなど洒落た造りの飲食店も沢山あり、最近日本でも流行りの昆虫食の屋台までもある。

シェムリアップにきたのだからカンボジア料理を食べたいと思ったが、なんというかカンボジア料理というのは、ベトナム料理で有名な揚げ春巻きやタイ料理の代名詞と言えるレッドカレーと同じようにココナッツミルクを使っているカレーなど、近隣諸国と似たような料理が多く、それだったら今まで食べてきたそれらの方が好みだと思えるものだった。なので入り口付近で調理をしていい匂いを漂わせ賑わっている中華料理店へ入った。

観光客と同じくらい現地人らしき人も沢山いたので、さすがにおいしい店だった。

マンゴーのチャーハンというのも食べたがこれもなかなかいけた。ほんとうにただあのマンゴーがチャーハンに入っているだけの料理で、これがカンボジア独特なものなのか、東南アジアではよくあるものなのか、この店のオリジナル料理なのかわからなかったがおいしかった。

そんな中華料理に満足しながら店を後にし、しばらくぶらぶらしているとマッサージ屋が乱立している通りがあったので入ってみることにした。元々肩こりがひどく日本にいるときもよくマッサージにいく。旅行本でカンボジアはマッサージが安いと書いてあるのを読んだので実は1回は行ってみようと思っていた。1時間程で5$だ。表向きは普通の店のように見せているが、ここらへんのマッサージ屋はほぼいかがわしい店のようだ。こっちは普通にマッサージしていもらいたいだけのなので、じっくり店の品定めをしていた。すると一つの店に大学生くらいの白人男性2人組が吸い込まれていく店があったので、つられて自分達も入ることにした。

こちらは男女の2人組である。そんな変なことはないだろうと思っていた。

店の前に立っていた若い女性に「5$?」と聞くと、うんうんとうなずくので、5$5$と手を広げて5$しか払わないという意思を表現しながら店に入る。

最初表からすぐ見えるところにマッサージチェアが並んでいたのでそこでやってもらえると思ったし、その通り入った直後はそこに座れと言われたので座っていた。しかしすぐに店を仕切っているような貫禄のある女性が来て上に連れていけというようなことを若い女性に言っている。

先ほどの2人組が消えていった方である。

私達は、怪しいと思いながら若い女性に連れられて狭い階段を登って二階に上がった。

階段の正面に部屋があり、その右手にも扉の開いた部屋がある。そこに入れという。部屋は暗く、床には薄い布団が敷いてあり、天井から長いカーテンがかかっていてそれぞれ布団毎に仕切れるようになっている。並びのふとんに横になれというので横になっていると、またあの貫禄の女性がやってきて、私達を引き離そうとする。男は先ほどの階段正面の部屋へ行けというのだ。これは引き離されると何かあると思ったので、ノーノーと絶対に動かなかった。すると今度はカーテンを引こうとするので、それも危ない気がしたのでカーテンを閉めるのを阻止した。

そして普通のマッサージが始まった。

女性の手がとても冷たかった。

私達のどちらの担当もまだ20歳そこそに見える、小柄で痩せた女性だ。

カーテンが開いているので二人でおしゃべりをしながら私達をマッサージしている。

何を言っているのか、笑いながらやっている。とても明るい。

タイマッサージのように難しい体勢をさせられたりするので、いたたたなどと言ったりすると、

「イタ~イ」などと上手な日本語で卑猥なセリフにして返してきたりして二人で笑いあったりして屈託がない。

そんな中「オーマイガー・・・」と小さく男性の声が聞こえる。

そこで大学生2人組が先客でいたことを思い出した。

部屋の左右の端のカーテンが閉まっていたので、その中にいるのはその2人だろう。

店に入っていく横顔をみたがニヤニヤしていたので2人の目的通りのことがされているのは明らかだ。しかしカーテンが閉まっているとは言えそんなに大きくない静かなこの部屋でいかがわしいことが行われているとわかるのはその一声くらいだった。一人の方はカーテン一枚、まさに自分のすぐ隣にいるのだ。しかしほとんど存在を感じなかった。ヒソヒソと時折、女性がゆっくりと囁く声だけが聞こえる。カンボジアの言葉(もしかしたら英語だったのか?)がわかれば状況は把握できたのかもしれないが、理解できない自分にはヒーリング効果のあるサウンドが流れているようにしか聞こえなかった。

約束通り1時間ほどでマッサージは終わり、5$を払って店をあとにした。

先ほどは空席の目立った欧米人が好むような洒落た店が満席になっていた。どうやらナイトマーケットのピークはまだまだこれからのようだ。外は暑く、音楽と光のあふれる通りを歩きながら、カーテンの向こうの囁き声を頭で再生した。そして肩に置かれたヒンヤリとした指先のことをなぜか私は気にしていた。

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